熱伝導による位相遅れを利用したCMOS発振回路に関する研究
平井 孝明
2008 年度 卒 /修士(工学)
修士論文の概要
本研究は、電子回路における新たな信号の伝達媒体として、熱伝導を取り入れることで、新たな特性を持つ回路の開発を行うことを目的としている。通常の電子回路において入力から出力に信号を伝えるのは電圧または電流であり、その他の媒体として光などがあげられる。新たに用いる熱伝導は、近接している素子間であればアナ ログ信号の伝達が可能であり、また、熱伝導と電子回路の物理量を比較した場合に、温度を電圧、熱流を電流、熱抵抗と熱容量をそれぞれ電気抵抗と静電容量とみなせば、これらは同じ偏微分方程式に従うため、熱伝導系を電気等価回路に置き換えることが可能である。これにより新たな特性を持つ電子回路への応用が期待され、例 えば、二つの回路間において、熱伝導により信号の伝達を行うことで、電気的に絶縁された状態の回路を設計できる。また他の例として、熱が伝導する際に発生する入出力間の遅延を利用することも可能である。
本研究では、熱伝導により発生する位相遅れを利用した移相発振器の設計を目指す。この熱伝導移相発振器は、反転増幅器と集積回路上に設計された熱伝導フィルタからなる。この熱伝導フィルタは、ポリシリコンヒータと温度センサからなり、これらは酸化膜により分けられている。ヒータから発生した熱は酸化膜中を伝導し、温 度センサに届く。温度センサは、熱伝導によって位相が180 °反転した出力を反転増幅器を介して入力に帰還させる。このように設計された発振器は、熱伝導フィルタの構造と物性定数により決定される周波数でもって発振する。