νMOSセルオートマトンによる機能情報処理LSIの研究
池辺 将之
1999 年度 卒 /博士(工学)
平成10年度〜平成11年度 日本学術振興会特別研究員
博士論文の概要
本研究は、非ノイマン情報処理アーキテクチャのセルオートマトンとシリコン機能デバイスのνMOS FETを結びつけることによって、既存の集積回路とは異なる新しい並列処理・機能処理LSIの開拓を目指したものである。すなわち、カオス暗号処理システムと完全並列型画像処理システムを例として、セルオートマトン処理システムの設計方針を確立することにより、新しい並列・機能LSIの実用化に向けた見通しを得ることができた。
近年の電子工学、特に情報処理システム分野における日進月歩の発展には目を見張るものがある。その背景には、現代社会の情報化が進み情報処理装置なしには成り立たないという事態の進展がある。このような状況に対応して、情報処嘩システム分野は常に最先端の技術で研究開発され、将来も発展し続けるであろう。
情報処理用のハードウェアに関しては、現在はノイマンアーキテクチャとブール代数に基礎を置いたLSIコンピュータが主流となっており、この流れは今後も揺るぎないものと考えられている。しかし最近のマルチメディア社会の発展や、情報そのものが多種多様に細分化する傾向にあることで、現在のLSIコンピュータでは処理しきれない問題も増え続けてきている。また製造上や設計上の問題により、動作速度・集積度・消費電力の点で近い将来に性能向上の限界がやってくると考えられている。そのような問題に応えるため、現在のLSIコンピュータの仕組みの基本であるノイマン型アーキテクチヤ/ブール代数といった概念にとらわれない別種のアーキテクチャを利用することが必要となる。
非ノイマン型アーキテクチャの情報処理システムとしては、ニューラルネットワーク、セルオートマトン、ホロニックシステムなどのような並列処理と分散処理を行うシステムが挙げられる。これらはいずれも現用コンピュータを全面的に置き換えるものではないが、しかし現用コンピュータの不得意な分野を補うものとして実用化が期待されている。
このような新しいアーキテクチャにもとづくLSIを創り出すには、2つの方向がある。1つは材料組織そのものの特性や物理現象を応用してそれを情報処理に利用させることである。例えば単電子トンネリング現象や量子相関現象を利用して有用な情報処理をする素子を作ることが提案されているが、いずれも研究段階である。もう1つの方向は、既存のCMOSデバイス技術を利用して新しいアーキテクチャを実現することである。後者の方向では、既存のデバイスを有効に利用するためのアイデアが重要となるが、LSI製作の上では問題は少ない。本研究ではこの後者の方向をとっている。
本研究では、非ノイマン型アーキテクチャのセルオートマトンを取り上げる。セルオートマトンの情報処理への応用例として、第一に高速画像処理があげられる。たとえば高速移動する物体からの障害物検出などは既存の逐次的な画像処理の速度ではとても対処できない。しかし、セルオートマトンの並列処理性・高速性を用いて画像処理することによりこれが可能となる。セルオートマトンの手法を用いて画像情報を圧縮し、画像輪郭や対象物体などの重要情報を並列に入力、並列処理、並列出力するインテリジェントセンサのような新しい画像処理LSIを開発することができる。また、セルオートマトンによるカオス的振る舞いを利用することで、カオス暗号処理、電子透かし等の新しいセキュリティ技術の開発も期待できる。
しかし、これらを実用のものとしてデバイス化、回路化することは現在のところほとんど報告されていない。そこで本研究では、このセルオートマトンを既存CMOS技術を用いて実現する方法(処理アルゴリズムと回路ハード化)の提案を行った。