原子スイッチの動的非線形性を活用した極低電力・高精度な物理リザバーコンピューティングに関する研究
久保田 宙
2021 年度 卒 /修士(情報科学)
修士論文の概要
本研究ではエッジコンピューティングのための新しいAI(artificial intelligence)デバイスとして原子スイッチを用いたリザバーコンピューティング(RC)を提案する。近年、様々なエッジAIが研究されている。しかし、AIの学習をエッジで行うことは、そのコストの大きさから、実現しているものはわずかである。そこで、学習できるエッジAIとして原子スイッチを用いたRCを考案した。RCとは、時間的な動的挙動を示す人工ニューラルネットワークのひとつであり、その特徴から学習コストが少なく、物理システムに実装することが可能である。そして、原子スイッチはRCに必要な計算である非線形性や短期記憶能力をもつ。また、原子スイッチは高抵抗、低電圧駆動、微小なデバイスサイズという特徴により、エッジAIに必要な要件である低消費電力・高集積を実現する。提案するRCアーキテクチャでは、原子スイッチをリング状に順次配置し、時分割多重化を用いた。まず、理想的な原子スイッチに対し、シミュレーションを行い、精度および線形記憶容量(MC)に関して従来アーキテクチャと比較した。その結果、提案するRCアーキテクチャは高精度かつ大容量であることが明らかとなった。次に、提案したRCに実際の原子スイッチの測定による時間的な電流変動(ノイズ)が混入すると、性能が著しく低下することが分かった。そこで改善のために、動作電流範囲を大きくしSN比をあげる、原子スイッチを複数回観測して平均化する、時定数を変更して入力時コンダクタンスを変更する方法を提案する。