電流制御型素子によるディジタル論理回路
太田 喜貴
2011 年度 卒 /学士(工学)
卒業研究の概要
本研究ではMTJ素子を使用した論理回路を提案する。MTJ(Magnetic Tunnel Junction)とは磁気トンネル接合のことであり、非常に薄い絶縁膜(厚さ10 nm程度)を強磁性金属膜2枚で挟んだ物である。MTJはこの強磁性金属膜二枚の磁化の方向が平行状態か、反平行状態かで素子の抵抗が変わる素子である。本研究はこれを利用して電流制御型のディジタル論理回路構成することが可能であることを提案する物である。この回路の特徴として、動作中に回路ノード電圧が変化しないので回路の動作速度がノード寄生容量に左右されず、高速動作が可能であることが予想される。本研究では提案した回路をコンピュータ上でシミュレーションすることにより予想される回路の動作を確認し、その特徴を確かめる。そしてこの提案が妥当な物であるかどうかを確認する。
MTJの構造は先述の通り、強磁性金属膜二枚の間に薄い絶縁体膜を挟んだ構造をしている。このMTJは両側から電圧を印加したときに絶縁体に流れるトンネル電流が、強磁性金属膜二枚の磁化の方向が「平行のとき流れやすく」、「反平行のとき流れ難い」という性質をもっている。またこの性質をTMR効果(Tunnel Magneto Resistance Effect)といい、この磁化の平行、反平行による抵抗の比を磁気抵抗比(MR比)という。TMR効果自体は1975年には報告されていたが、当時は磁気抵抗比が14%だった上、4.2Kまで冷却する必要があったためあまり注目されていなかった。しかし、1994年に東北大学の宮崎照宣教授が室温で88%という大きなTMR効果を観測して以来、TMR効果、またMTJについて応用可能性が検討され、研究が活発になった。現在(2011年)では東北大学大学院工学研究科の安藤康夫教授のグループが世界最高性能の強磁性トンネル接合素子の開発に成功しており、強磁性金属膜3枚と絶縁膜2枚による二重トンネル障壁構造のMTJを開発し、室温で磁気抵抗比1056 %という大きな値を記録している。これによりさらにMTJの応用可能性が広がっており、現在ではMTJを利用した不揮発性RAMである磁気メモリ(MRAM)が開発されていて、2013〜2014年にはDRAM代替を始めると見られている。今後研究がより進んでいくことを予想しMTJをどのように有効に活用していくか検討する必要がある。本研究はそのための提案の一つである。
本研究の内容は電流制御型のMTJ素子を使用した論理回路を提案し、動作シミュレーションをした結果と考察である。動作シミュレーションは提案した回路が実際に動作するかどうかを確かめること、また予想した回路の特徴とどのようなズレがあるかを調査することを目的としている。本研究では寄生容量に左右されない電流モードデジタル論理回路の構成である。よって主に寄生容量を変えることで結果にどの程度影響がでるかに注目する。