低電圧CMOSディジタル集積回路のためのPVTばらつき補正技術に関する研究
次田 祐輔
2009 年度 卒 /修士(工学)
修士論文の概要
本論文は、著者が北海道大学大学院 情報科学研究科在学中に情報エレクトロニクス専攻 集積システム講座 機能システム学研究室において行った低電圧ディジタルLSI向けのPVTばらつき補正技術に関する研究をまとめたものである。
CMOS集積回路(LSI)は、そのデバイス素子の微細化によって目覚ましい発展を遂げてきた。これにより、LSIは私達の生活のあらゆる場面で深く関わっている。特に携帯電話に代表されるモバイル端末向けのLSIの成長は顕著である。さらに今後、ユビキタス情報化社会の発展に伴うセンサネットワーク向けのLSIの発展も見込まれており、各種情報端末の普及が予想される。これによりLSIはますます私達の生活と密接の関わっていくことになる。
これらの端末が普及すると、いつでもどこでもネットワークを介して情報の発信・受信が行えるようになり、宅内機器の自動制御やメンテナンス、家のセキュリティ管理、など私達の生活がより豊かになる。しかし、このようなユビキタスなネットワーク社会を実現していく上で大きな課題がある。それはバッテリ電源の問題である。これらポータブルアプリケーションは、その電力源がバッテリ電源によって強く制限されている。そのためバッテリ電源の限られたエネルギーのみで長時間の連続動作をしなければならない。
このような条件を満たすには端末を低電力で動作させなければならない。端末の中でも特にLSIは、様々な制御や情報処理が行われるキーとなる部品で、情報端末全体に占める電力消費の割合が高い。そのためLSIの低消費電力化に対する要求は今後さらに強くなっていく。これに対してソフトウェア・アーキテクチャ・回路設計・プロセスのあらゆるレベルで様々な低消費電力化技術が開発されて、実際に用いられている。こういった多くの低消費電力化技術のなかでも特に効果的な手法として、回路の低電圧化が挙げられる。これはディジタルLSIのスイッチングエネルギーが電源電圧の2乗に比例するためである。そのため、電源電圧を低減できればLSIの消費エネルギーを大幅に削減することができる。ところが、回路の低電圧化を大きく阻害している要素がある。それは回路特性ばらつきの問題である。LSIはプロセス誤差(Process)、電源変動(Supply-Voltage)や温度変化(Temperature)によって、その特性が変化してしまう。特にこれら3つのばらつきをまとめてPVTばらつきと呼ぶ。回路を低電圧で動作させると、このPVTばらつきにより回路特性が大きく変動してしまう。これによって回路設計者は、これらばらつきを考慮して電源電圧を高めに設定するなど余裕(マージン)を持たせて設計しなければならず、回路の低電圧化は困難となる。
そこで、本研究では低電圧ディジタルLSIのばらつき補正を目的とする。LSIのばらつきを補正するアーキテクチャを2つ提案し、その動作について検証を行った。提案回路を用いることにより、LSIの低電圧動作時におけるばらつきを大幅に改善することができること確認した。これにより、提案回路がLSIの低電圧化に対して有効な手法である見通しを得た。