導電性ポリマーワイヤー成長の簡易数理モデルとその脳型デバイス応用に関する研究
雨宮 佳希
2021 年度 卒 /修士(情報科学)
修士論文の概要
本研究は、様々なニューラルネットワークに対して高い実装効率の維持し低消費電力を可能にするアーキテクチャを求めるものである。近年精力的に研究されてるAI専用ハードウェアのアーキテクチャとして2Dクロスバーモデルがあるが、このモデルは全結合型ニューラルネットワークに対応しているため畳み込みなどの近傍結合を表現する場合に無駄が生じる。そこで、次元の障壁を超えるべく立体的な新しいアーキテクチャのシナプス素子が望まれている。我々は新しいアーキテクチャについて、CBRAMから着想を得た。CBRAMに電流を流すと電位勾配に沿って電極間に導電性フィラメントが発生し配線が形成されるため、導電性フィラメントが発生を電極点の間で制御することで無次元の配線を理論的に可能とする。そんなCBRAMを立体的に集積することで実際の脳構造を模した脳型デバイスを、我々は新しいAI専用ハードウェアとして提案する。我々のチームが研究しているCBRAMはPEDOT:PSSであり、前駆体溶液とそれに浸した電極に矩形波交流ポテンシャルを印加することで、電解重合により導電性高分子PEDOT:PSSワイヤーが発生する。本研究ではこのPEDOT:PSSワイヤー成長のヒューリスティックモデルを考案しシミュレータを作成・応用することで予め三次元的な電極配置による実験で起こる問題を予見することを最終目標とする。まず最初に、PEDOT:PSSワイヤー成長の特徴を「量子化した溶液空間内で最も電流が流れた場所を、導電性ポリマーワイヤーに変化させる」という形に単純化し、これを基本原理に2次元シミュレータを作成した。2次元シミュレーションは成功しヒューリスティックモデルを用いたニューラルネットワークの学習可能性を示した。次に二次元シミュレータを三次元へ拡張した。電位分布の解析方法に二次元シミュレータでは節点法を用いたが、三次元への拡張でシミュレータの規模が増大したことに対処するため、電位分布の解析方法をオイラー法に変更した。三次元シミュレーションも成功したがシミュレーションを行う中で、シミュレーションで再現する空間の規模とシミュレーション時間がトレードオフの関係にあり、さらに複雑なシミュレーションを行うためにはこの関係が肝要であることがわかった。